科学の技法

現役整形外科医が語る科学のトリビアです!

Biomet A.L.P.S. Elbow Plate使用後雑感

今回は手術インプラントの話。2年前に発売されたBiomet A.L.P.S elbow plateの使用感について。上腕骨の肘側で骨折した患者さんをみると治療法に選択に悩むことが多い。尺骨神経麻痺や複合性局所疼痛症候群などの合併症に遭遇する頻度は一般的な骨折よりは高い。
今回は肘の骨折(上腕骨通顆骨折)にBiomet A.L.P.S elbow plateを使用してみた。プレートの厚さはLocking plateとしては薄く仕上がっていて、強度が犠牲になっているとしても、他社の同部位のplateよりは使いやすいとい印象である。皮膚切開は肘頭を中心に長軸方向に末梢と中枢へそれぞれ8cmずつ。骨折部の展開は、筋肉質の人には肘の頭をV字型落として(chevron法という)近位方向に反転させる方法が一般的であり最も視野が確保できる。しかし、筋肉量の少ない人には上腕三頭筋を縦割すると一瞬で上腕骨の後方骨面に到達するため、肘頭の骨切りは不要である。自分で試したことはないが、三頭筋の逆V字フラップを末梢方向に反転させる展開方法もある。

注意点(箇条書き)

1:ベンディングの繰り返しで金属疲労すると容易に折損
(改良の余地あり・特に後外側プレートの細くなった部分はベンディングで容易に折損)

2:上腕骨は意外に薄いため、2本のスクリューをクロスに打つと必ず干渉する(プレートとスクリューなら干渉しない)

3:麻痺の予防のために、尺骨神経の前方移行術を推奨する手術書もあるが、印象的には尺骨神経は位置の同定のみであえて触らないほうが術後の状態は良好(議論の余地あり)

4:ケースバイケースではあるが、デュアルプレート(プレート2枚設置)は行わず、尺側はアズニスなどのスクリュー固定のほうが尺骨神経麻痺のリスクが軽減できかつ手技も簡単である(エビデンスはなし)

5:競合他社の製品はONI ELBOW SYSTEM(ナカシマメディカル)・Distal Humerus Plate(DepuySynthes)・Mayo Clinic Elbow Plate(Acumed)など
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アマチュア天文学者の活躍

毎日新聞平成29年3月25日の記事によると、「新古今和歌集」や「百人一首」の著者でもある藤原定家は18歳の頃から56年間「明月記」という書物に、客星(突然現れた星)の記録を紹介している。この記録をアメリカの天文学の専門誌へ紹介したのは、神戸の貿易商であり、アマチュア天文学者としても知られる射場保昭氏である。その後、欧米の天文学者がこの現象に注目してその1つがかに星雲を生み出した超新星爆発であることが判明した。また別の記録では、1204年に京都の北の夜空が山に起きた火事のように赤く光っていたという記載があった。これは「赤気」(せっき)と呼ばれる現象であり、実は京都の夜空に現れたオーロラであることが後に判明した。その当時は太陽活動が異常に活性化していたため、京都にオーロラが発生したことが理論的に説明できる。現代の天文学や地球物理学にまで新たな知見をもたらした藤原定家の情熱もすごいが、私はアマチュア天文学者の射場保昭氏の情熱にも感動した。

超ひも理論とニュートリノ振動

先日、日本物理学会の市民科学講演会に参加した。ノーベル賞の梶田さんの話が無料で聴講できることもあって聴衆は少なくとも500人くらいはいたと思う。前半は橋本幸士先生(大阪大学教授)の「超ひも理論」の講演。橋本さんの話では、日本全国に物理学者は約1万人、そのうち5000人が大阪大学に集結しているが、参加者の大半はTシャツにジーンズというカジュアルな出で立ちである。橋本さん自身もノーネクタイにTシャツというラフな姿で檀上に登壇された。講演では、3次元で我々が観測してる光子の偏光は実は高次元の重力子の振動と同一であるという仮説を紹介された。我々の住む世界が縦横高さの3次元であると考えているのは、人間の勝手な思い込みのようなもので、実際はもっと高い次元から投射される影のようなものが我々の住む世界の実体である。この仮説は天才物理学者マルダセナの論文から導かれる。

幸運にも、最後の質疑応答の時間に質問の機会を与えて頂いた。そこで、決定論を支持するかどうかについて聞いてみた。質問の答えは、私は因果律を信じているが、物理法則が人間の行動のすべてまでを支配しているのかどうかは、自分の興味の対象外ということであった。

後半はニュートリノが質量を持つことを発見した梶田隆章先生(2015年ノーベル賞受賞者)の講演。講演は「すみません、今日私はネクタイをしてきました」という短い挨拶からのスタートであった。この一言はユーモアのセンスがあって私は気に入った。梶田さんの謙虚な人柄のよさも感じた。生の講演を聴講するとその人の人柄が分かるのが面白い。

ニュートリノは毎秒1兆個が体の中を通過しているが、地球全体をすり抜けてしまうほどの電子より小さいサイズのため捉えどころがない。そのため昔はニュートリノは質量がゼロと考えられていた。私の知識では理論的に質量がゼロである粒子は光子(光の粒)のみである。ニュートリノは小さすぎてどれだけ細かい網目にもひっかからない。しかし、スーパーカミオカンデを使うとわずかながら検出することが可能である。スーパーカミオカンデは5万トンの純粋で満たされた巨大な水槽のようなもので、ニュートリノは低い確率で水分子と衝突することがあるため、この方法でニュートリノを検出する。梶田さんはこのニュートリノが別のニュートリノに変化するということを観測により証明し、ニュートリノが質量を持つことを発見された。

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ローレンツ収縮

今日は動く物体の長さが縮む理由について考えてみよう。
相対性理論の本を読んだことがある人であれば、ローレンツ収縮(もしくはフィッツジェラルド=ローレンツ収縮)という言葉を知っているであろう。これは、光の速度に近いような速い速度で動く物体の長さが縮むという現象であるが、その現象が起こる理由を理解することは難しい。「図解・わかる相対性理論」を読むと、比較的分かりやすい説明があった。動いている物体の長さの定義を動く物体Xの両端と静止した物体Yの両端が同時に一致したときに、動く物体Xの長さは静止した物体Yの長さ(左端から右端までの距離)と同じ長さであるとする。すなわち、物体Yは物差しのような役割である。Xは左から右に動いている長い物体、たとえば電車の車両などをイメージするとよい。物体Yの真ん中に光源を置き、光源が電車の両端(左端をAと右端をBとする)に到達する時間を同時刻と定義する。そして、光源から出た光が左端Aに到達することを事象A、右端Bに到達することを事象Bとする。静止した物体Yの中にいる人にとって、事象Aと事象Bは同時刻に起こるが、動く物体Xの中にいる人にとっては事象Bが先に起こり、その後に事象Aが起こることが確認できる(同時性の崩れ)。しかし、同一場所での同時性は絶対に崩れない。さらに、静止している人にとっても、動いている人にとっても、事象Aと事象Bが発生した時点でのAB間の距離が物体の長さである。そうかんがえると、動く物体Xの中にいる人から見ると、Xの長さとYの長さの比は、1: √{1-(v/c)^2}(vは物体xの速度、cは光の速度)であるので、静止したときのXの長さは、動いているYの長さより長い。「図解・わかる相対性理論」には分かりやすい計算方法が載っているが、結論として動く物体の長さは縮むことになる。これは、裏返すと、動いている物体の長さが変化しないと仮定すれば、自分自身の体が物体Xの進行方向と平行に拡大していることを意味する。

史上最強の化学兵器

金正男氏がマレーシアの空港で暗殺されて2週間以上が経過した。最近の北朝鮮の常軌を逸した行動は非常に不可解である。マレーシア警察は暗殺にVXガスが使用されたことを確認した。VXガスは粘着性の高い物質であるためサリンより扱いやすく、人類が作り出した最も毒性の強い化学物質である。数秒間顔に塗りつけるだけ人を殺せるとなると、どんな護身術をマスターしても全く意味がない。トランプ大統領は潔癖症で知られており初対面の人とは握手をしないとの報道があったが、これもテロ対策と考えればうなずける話である。アメリカ、日本を始め、192カ国が化学兵器禁止条約に締結しているが、北朝鮮はその条約を締結していない。私の仕事は整形外科の医師であるが、小さな頃から数学者や物理学者への憧れがあり、実は現在も憧れ続けている。純粋に好奇心のみでこのブログを書いている。先日、手術室で雑談中に麻酔科専門医の先生に質問してみた。VXガスで襲われた患者さんが来たら、どうやって救命すればよいですかと。有機リン剤中毒解毒剤であるPAM静注500mgが有効であることが知られている。しかし、この薬剤は一般の病院には常備されていない可能性が高い。または、アトロピンを大量に打つことにより中和することも可能らしい。もしくは、襲われた直後にレスピレーター(人工呼吸器)に乗せると、救命できる可能性は高いとのことであった。

続・光の速度

光はニュートン古典力学から考えると、不可解ともいえる性質も持っている。不可解の最たるものは、光の速度が一定であるという性質である。光速がなぜ一定なのかは私はうまくは説明できないが、光は真空の空間(絶対的な無の空間)の中であっても、問題なく伝わっていく。この点は、音が空気という媒体を必要とするのとは異なる。真空空間にとっては物体の速度そのものが意味を成さないというイメージを、私は持っている。人間や惑星も含めたあらゆる物質が存在しない広大な真空空間をイメージし、その真空空間の中を秒速100kmで走っている物体を想像してほしい。想像を膨らますと、高速で動いているその物体は完全に静止していると思うこともできる。したがって、光源から遠ざかっていく人からみても、光源に近づいていく人からみても、光の速度は一定である。新幹線に乗っている人から見ても、新幹線の横で静止している人からみても、全く同じ速度なのだ。これはわれわれの直観に反している。なぜなら、時速200kmで走っている新幹線の中の人から見ると、時速300kmで新幹線と同じ方向に動く物体は時速100kmで動いているように見えるが、静止している人からはその物体は時速300kmで動いているように見える。光速に関しては、その常識が通用しない。新幹線の中の人、静止している人、または自動車を運転している人、その他すべての人からみて、光の速度は秒速30万kmである。これが光速不変の法則であり、アインシュタイン相対性理論の大前提である。興味深いことに、この法則は実験的にも証明されている。たとえば、1887年のマイケルソン・モーリーの実験が有名である。興味がある方は「図解・わかる相対性理論」などの書籍を参照してもらうとよいが、ざっくりいうと地球上で観測される光の速度は実際の測定値がすべて一定である。観測者と光源との相対速度は全く関係なかったのである。

光の速度

富士山が肉眼で見える南の限界は和歌山県の妙法山(距離約320km)である。最も単純な光の速度の測り方は、ある山Aの山頂で光源のスイッチを入れて、別の山Bの頂上でそれが確認できた瞬間にBの頂上の光源のスイッチを入れる。Aの山頂にいる人がBの山頂の光が見えた瞬間までの時間を計測するという方法であれば、誰もが思いつくであろう。しかし、この方法はうまく行かない。なぜなら光の速度は秒速30万キロメートルであるため、300km離れた場所にたった千分の一秒で到達してしまうために、そんな実験は不可能である。もちろん現在では衛星を使って地球の裏側と通信できるため、光速(電波も可視光線も実は同じ電磁波である)による時間のズレを感じることができる。そう考えると、1849年にフィゾーが高速回転する歯車と反射平面鏡を使ったかなり巧妙な方法で光の速度が秒速3.15X10^8m/sという数値を得たことは驚くべき精度と考えられる。