科学の技法

現役整形外科医が語る科学のトリビアです!

自分のやりたい仕事が分からない

高校生や大学生の中に、自分のやりたい仕事が分からないという人が意外に多い。今日はなんとなく職業の適性について考えてみた。僕自身、高校時代は自分が将来何になるべきか悩み過ぎて結局結論が出ず、両親に勧められるままに医学部に入学した。選択肢は多すぎると選べなくなるので、職業を2種類に分けて考えるのがよい。究極的には職業は以下の2種類に分けることができる。

1. 人間が相手の仕事
2. 人間が相手ではない仕事

例えば、数学者は仕事の対象=研究テーマであって、仕事の対象は人間ではない。
しかし、数学の教師は生徒相手の仕事なので、仕事の対象は人間となる。

医者の場合はどうか。少なくとも臨床医は人間が相手の仕事であると思う。
しかし、医学部の中には、人間と密に関わる事を好まない人もいる。
そういう人には放射線科医という選択肢もあって、モニターに映し出された画像相手に仕事をしているほうが向いていると思う。
または、基礎医学の道を志すのもよい。

しかし、看護士という職は人間と密に接する事が好きじゃなければ選ばない方がいいであろう。大企業であれば、人と接するのが好きな人とそうではない人をうまく使い分ける必要がある。同じ製薬会社であっても、研究職とMRなどの営業職では全く別の人種という印象を受ける。警察官だったら、刑事は人間が相手の仕事であって、鑑識・科捜研の人は人間よりも物体が対象ということになるのであろうか。

自分自身がどちらのタイプの人間かを考えると、自ずとやりたい仕事が見つかると思う。
中には両方得意という人もいるとは思うが、そういう人の職業選択の幅はかなり広くなる。

文系と理系の違い2

ユークリッドの原論によれば、点や直線の定義は部分や面積をもたない領域とある。でも、実際は点や直線は無定義用語と考えてよいので、そういった点や直線の定義は一旦忘れてもよい。すなわち、公理(公準)を満たすことだけが要求されているので、その要求さえ満たせば、点や直線はなんでもいいってことである。イメージしにくいが、点を机、直線をイスのようなイメージを持ちながら、以下の5つの公理(公準)を満たすのであれば、ユークリッド幾何学の定理はすべて証明されてしまう。数学は厳密化を重視するので、基本的すぎて人間が直感的に正しいと感じる法則は証明する必要がないし、実は証明することができないことにも気づく。

ユークリッド幾何学の5つの公理(公準)
1. 任意の点から任意の点へ直線を引くこと(少なくとも2つ以上の点があって、線分を描くことができる)
2. 有限な直線を連続的に直線に延長すること(ものさしの長さは有限であっても、直線の長さはいくら延長してもよい)
3. 任意の点を中心とする任意の半径の円を描くこと(コンパスを使って任意の点で任意の大きさの円を描く)
4. すべての直角は互いに等しい.
5. 直線が2直線と交わるとき,同じ側の内角の和が2直角より小さいなら,この2直線は限りなく延長されたとき,内角の和が2直角より小さい側において交わる(平行線の公理)

文系と理系の違い1

文系(例えば言語学)の世界では、すべての言葉(単語)は意味を持っていることが前提である。その言葉の意味を解説しているものが、国語事典(辞書)である。そういう前提では、専門用語などの言葉の意味の解説と違って、日常会話でごく普通に使っていて意味など解説するまでもないような基本的な単語の意味も当然解説しなければならない。基本的な言葉になればなるほど、基本的すぎてその言葉の意味の説明は困難となってくる。例えば、新選国語事典(小学館)で「右」(みぎ)という単語の意味を調べてみると、「①南に向かって東のほう」とある。次に「南」(みなみ)という単語を調べてみた。「①東にむかって右のほう」となっている。こういのは、循環論法といって、本質的には言葉の意味の説明になっていない。「事」(こと)という単語の意味を調べてみた。①意識や思考の対象となるもののなかで、「もの」と「もの」との関係や、時間の経過に伴う「もの」の変化など、形にあらわれにくいことがら。となっている。読めば読むほど意味が分からない。したがって、基本的な単語の意味は定義しなくてもよいという立場もある。

なぜScientistなのか?

日整会広報室ニュース107号の記事が面白かったので、忘れないうちに書き留めておこう。英語には接尾辞というのがあって、動詞にerを付け加えると、その動作を行う人間を表す。例えば、playする人はplayerであり、fightする人はfighterである。他の接尾辞には、主に職業を表す接尾辞ianやistなどがある。
前者の場合、音楽家はmusicianであり、数学者はmathematician、内科医はphysicianであり、小児科医はpediatricianである。後者には、pianist、violinist、dentistなどがある。これらを眺めると、istは専門家を意味しており、ianはその分野全体に精通しているという意味を持つことが分かる。physicianと言えば、内科医という意味であり、かなり漠然としているが、より専門的な医師はoncologist(癌専門医)、cardiologist(心臓専門医)などと呼ばれ、整形外科医はorthopedistと呼ばれる。多方面の知識を持つ人という意味のgeneralistがgeneralianとならないのは、このistは職業を表しているのではなく、むしろ、考え方や主義を表しているistと解釈すべきである。「病気を診るな、人を診ろ」という言葉がある。医師には専門外の知識を含め生涯幅広く勉強することが求められる。すなわち医師は外科医・内科医を問わずphysicianであることが理想的であると言える。科学分野においても、biologist(生物学者)、physicist(物理学者)などは何々イストであるが、それら全体を表す科学者がscienticianとならずにscientistとなるのは、この法則からすると不自然である。村上陽一郎氏の本を読めばこの疑問に対する答えが見つかるらしい。実は時間がなくて私自身まだ「なぜScientistなのか?」の理由を知らない。いつか時間に余裕ができたら、この疑問を解決したいと思う。

Biomet A.L.P.S. Elbow Plate使用後雑感

今回は手術インプラントの話。2年前に発売されたBiomet A.L.P.S elbow plateの使用感について。上腕骨の肘側で骨折した患者さんをみると治療法に選択に悩むことが多い。尺骨神経麻痺や複合性局所疼痛症候群などの合併症に遭遇する頻度は一般的な骨折よりは高い。
今回は肘の骨折(上腕骨通顆骨折)にBiomet A.L.P.S elbow plateを使用してみた。プレートの厚さはLocking plateとしては薄く仕上がっていて、強度が犠牲になっているとしても、他社の同部位のplateよりは使いやすいとい印象である。皮膚切開は肘頭を中心に長軸方向に末梢と中枢へそれぞれ8cmずつ。骨折部の展開は、筋肉質の人には肘の頭をV字型落として(chevron法という)近位方向に反転させる方法が一般的であり最も視野が確保できる。しかし、筋肉量の少ない人には上腕三頭筋を縦割すると一瞬で上腕骨の後方骨面に到達するため、肘頭の骨切りは不要である。自分で試したことはないが、三頭筋の逆V字フラップを末梢方向に反転させる展開方法もある。

注意点(箇条書き)

1:ベンディングの繰り返しで金属疲労すると容易に折損
(改良の余地あり・特に後外側プレートの細くなった部分はベンディングで容易に折損)

2:上腕骨は意外に薄いため、2本のスクリューをクロスに打つと必ず干渉する(プレートとスクリューなら干渉しない)

3:麻痺の予防のために、尺骨神経の前方移行術を推奨する手術書もあるが、印象的には尺骨神経は位置の同定のみであえて触らないほうが術後の状態は良好(議論の余地あり)

4:ケースバイケースではあるが、デュアルプレート(プレート2枚設置)は行わず、尺側はアズニスなどのスクリュー固定のほうが尺骨神経麻痺のリスクが軽減できかつ手技も簡単である(エビデンスはなし)

5:競合他社の製品はONI ELBOW SYSTEM(ナカシマメディカル)・Distal Humerus Plate(DepuySynthes)・Mayo Clinic Elbow Plate(Acumed)など
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アマチュア天文学者の活躍

毎日新聞平成29年3月25日の記事によると、「新古今和歌集」や「百人一首」の著者でもある藤原定家は18歳の頃から56年間「明月記」という書物に、客星(突然現れた星)の記録を紹介している。この記録をアメリカの天文学の専門誌へ紹介したのは、神戸の貿易商であり、アマチュア天文学者としても知られる射場保昭氏である。その後、欧米の天文学者がこの現象に注目してその1つがかに星雲を生み出した超新星爆発であることが判明した。また別の記録では、1204年に京都の北の夜空が山に起きた火事のように赤く光っていたという記載があった。これは「赤気」(せっき)と呼ばれる現象であり、実は京都の夜空に現れたオーロラであることが後に判明した。その当時は太陽活動が異常に活性化していたため、京都にオーロラが発生したことが理論的に説明できる。現代の天文学や地球物理学にまで新たな知見をもたらした藤原定家の情熱もすごいが、私はアマチュア天文学者の射場保昭氏の情熱にも感動した。

超ひも理論とニュートリノ振動

先日、日本物理学会の市民科学講演会に参加した。ノーベル賞の梶田さんの話が無料で聴講できることもあって聴衆は少なくとも500人くらいはいたと思う。前半は橋本幸士先生(大阪大学教授)の「超ひも理論」の講演。橋本さんの話では、日本全国に物理学者は約1万人、そのうち5000人が大阪大学に集結しているが、参加者の大半はTシャツにジーンズというカジュアルな出で立ちである。橋本さん自身もノーネクタイにTシャツというラフな姿で檀上に登壇された。講演では、3次元で我々が観測してる光子の偏光は実は高次元の重力子の振動と同一であるという仮説を紹介された。我々の住む世界が縦横高さの3次元であると考えているのは、人間の勝手な思い込みのようなもので、実際はもっと高い次元から投射される影のようなものが我々の住む世界の実体である。この仮説は天才物理学者マルダセナの論文から導かれる。

幸運にも、最後の質疑応答の時間に質問の機会を与えて頂いた。そこで、決定論を支持するかどうかについて聞いてみた。質問の答えは、私は因果律を信じているが、物理法則が人間の行動のすべてまでを支配しているのかどうかは、自分の興味の対象外ということであった。

後半はニュートリノが質量を持つことを発見した梶田隆章先生(2015年ノーベル賞受賞者)の講演。講演は「すみません、今日私はネクタイをしてきました」という短い挨拶からのスタートであった。この一言はユーモアのセンスがあって私は気に入った。梶田さんの謙虚な人柄のよさも感じた。生の講演を聴講するとその人の人柄が分かるのが面白い。

ニュートリノは毎秒1兆個が体の中を通過しているが、地球全体をすり抜けてしまうほどの電子より小さいサイズのため捉えどころがない。そのため昔はニュートリノは質量がゼロと考えられていた。私の知識では理論的に質量がゼロである粒子は光子(光の粒)のみである。ニュートリノは小さすぎてどれだけ細かい網目にもひっかからない。しかし、スーパーカミオカンデを使うとわずかながら検出することが可能である。スーパーカミオカンデは5万トンの純粋で満たされた巨大な水槽のようなもので、ニュートリノは低い確率で水分子と衝突することがあるため、この方法でニュートリノを検出する。梶田さんはこのニュートリノが別のニュートリノに変化するということを観測により証明し、ニュートリノが質量を持つことを発見された。

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